2024-09-18

第18話 条例違反でツアー終了の危機!?”死刑宣告”は突然に

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豊洲市場に隣接する場外施設【豊洲 千客万来】が出来て半年が過ぎました。直感的に利用できる商業施設が出来たことで、ツアーの需要が減るのではないかとひやひやしていたのですが、蓋を開けてみれば、需要は横ばいかむしろ少し伸びているとさえ感じます。新しいガイドさんも今年に入って3人増えましたし、イヤホンガイド®の買い増しも予定していますので、今後はより多くの需要に応えていけたらと考えております。さて、今日はそんな豊洲市場の見学ツアーが出来なくなるかもしれないと肝を冷やしたとある”事件”についてお話したいと思います。


正確な日付は忘れてしまいましたが、2023年の7月中旬あたりだったかと思います。マグロのセリ見学ツアーのご案内中、だんご3兄弟のモデルになったことでも知られる「茂助団子」というお店の前でご案内をしていた時のことでした。だんご3兄弟のエピソードは大変喜ばれるトピックでもあり、ツアーの中でも重要なご案内の要素でもあります。そんなガイディングを遮る形で、私に声をかけてきた人がいました。声のトーンや表情から、それはウェルカムな話でないことは容易に想像が出来ました。



場内店舗「茂助団子」。だんご3兄弟のエピソードを聞いて、目の色を変えるお客様も多い。


ツアーで施設内のご案内をすることは、一般の来場者や施設の関係者の方のご迷惑になる可能性が少なからずあります。その為ミキキートスでは、イヤホンを通じて参加者の耳に声が届くイヤホンガイド®を使用していますし(騒音への配慮)、通行の妨げにならないよう、細心の注意を払って誘導をしながらご案内するようにしています(通行の妨げとならない配慮)。それでも、時折市場関係者の方から、すれ違いざまに「邪魔だ」というような言葉を吐き捨てられてしまうことがあります。そのような気持ちを抱かせてしまった時点で私共の負けですので、ツアーガイドの研修では「施設や他の利用者に迷惑をかけないこと」を最重要課題として指導をしています。


しかし、今回の声掛けはそのような問題とは別次元のものでした。そもそもガイド行為が「条例違反」だというのです。仮にこの方をXさんとします。やり取りは以下のような感じでした。



Xさん:私は東京都の職員です。ガイド行為は条例違反です。

私  :そうなんですか?これまで警備員さんも含めて一度もそのような指摘を受けたことがありませ んし、大田市場など他の市場と違い、豊洲市場にはそもそも団体見学(小中学校向けを除く)を 申請するフローがありません。申請をするフローもなく禁止とも書かれていないのですが…

Xさん:条例違反なのでダメなものはダメです。

私  :仮にそうだとすると、早朝を中心に沢山訪れる訪日観光客をはじめとしたガイド需要はどこが 受け止めるのですか?

Xさん:どういうことでしょうか?

私  :…うーん、分かりました。とりあえず今はご案内中なので、一旦ご案内を終わらせて、 後ほどお話をさせて頂ければと思いますが、どこに連絡をしたら良いですか?

Xさん:6階に東京都の事務所があるのでそこに来て下さい。

私  :分かりました…




上記はご案内中にお客様の目の前で繰り広げられたやり取りです。お客様の目にはどのように映ったでしょうか?本来認められていないガイド行為を、ルールを無視して行っている業者という印象を与えてしまったかもしれません。私は頭の中が真っ白になりました。Xさんの話が本当なら、今後豊洲市場でのツアーは実施ができなくなってしまうからです。虚勢を張って、表向きは元気にご案内を続けましたが、ダメ―ジが大きく、虚ろなガイディングになってしまっていたかもしれません。とりあえずどうにかご案内を終え、私は東京都の事務所を訪れることにしました。


当時カーシェアでよく利用していたN-BOXとNPC24の駐車場。現在この車両は借りられなくなり、駐車場も千客万来利用者専用へと変化した。


ツアー解散場所である7街区の魚がし横丁から一旦車に戻り、ツアーで使用した荷物を置いてから事務所を訪れました。その間20分ほどあったでしょうか。頭の中をいろいろなことが巡ります。 「豊洲市場のツアーができなくなったら、果たして事業は継続できるだろうか…」 「国会議事堂のツアーも再開したので、そっちを頑張ればなんとかなるかな…」 「今受注しているツアーのお客様にはどう説明したらよいだろう…」 などと、ネガティブな思考ばかりが頭を駆け巡ります。このタイミングではポジティブな思考は出来るはずもないのですが、元々ネガティブシンキングであることも相まって、ただただ途方に暮れていました。



初めて足を踏み入れる管理棟にある東京都の事務所。平日ではなく土曜日の午前中ということもあってか、先ほどのXさんとは別の職員の方おひとりだけが広いスペースでポツンとお仕事をされていました。その方をAさんとしましょう。声をかけて用件を伝えると、応接スペースのようなところにご案内頂きました。私は豊洲市場でツアーを実施している事業者であり、本日東京都の職員の方からこのような注意を受けたと報告しました。Aさんは私の話を一通り聞いたあと、次のような言葉を発しました。


「ご相談の件、私の認識としては条例違反には当たらないという認識です。ここでいう条例違反というのは、市場の敷地内で金銭のやり取りを伴って物を販売するような行為を指すものであり、ツアーで外からお客様を連れてくる行為は、大手の旅行会社と同じスキームですので、問題ないと思います。ですが、一応都庁に確認を取りますので、ご回答まで少し時間を頂けますでしょうか」



その言葉に少しだけホッとしました。Aさんの考え方が正しければ、これまで通りご案内を継続することが出来ます。ただ、都庁に確認をするということですので、都庁のお偉いさんの判断次第では、今後ご案内が出来なくなる可能性も残っている…そんな状況です。絶望ではないものの、漠然とした不安を抱いたまま、その日は帰途に就きました。