2024-06-26

第15話 2024年問題となかなか育たぬガイド問題

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2024年問題が話題です。そもそも交通機関の手配を行わないうちのようなツアー業者には関係がないと思われるかもしれませんが、観光バスが足りないことで、お客様が移動する手段が確保できずに、受注していたツアーがキャンセルとなる事案が発生する等、少なからず影響を受けています。円安で絶好調なインバウンド需要が、ただでさえ供給が減っている観光バスのリソースを消費しているという皮肉な話があるとも聞きます。「学校行事として外せない修学旅行で、大手旅行会社が観光バスを手配できなかったと謝罪をした」というニュースも世間を驚かせました。


2024年問題以前に、どの業界も人手不足が叫ばれて久しいわけですが、例にもれずミキキートスも万年人手不足の状況です。求人広告は通年出稿していますが、事業規模が小さく、求人にかけられる予算も限られていることがあり、なかなか思うように採用活動が進んでいません。そして、ご縁あって採用となった場合でも、その方がデビューしてくれるとは限らないのです。


成田空港校外学習プログラムご案内中の様子。

大人向けのツアーよりはハードルが低い部分もあるが、学習をしっかりとしてもらいつつ、飽きずに興味を持ってもらえるご案内をするスキルが求められる。


まず、ガイドというお仕事の特殊性に問題があります。経験者はともかく、未経験者にとっては業務内容をイメージすることが難しいのです。たとえば、同じサービス業でも、飲食店やショップの店員さんに応募する場合は、実際に店舗を利用して働いている様子を観察することもできますし、仕事内容を具体的にイメージしやすいと思います。就職後も、最初は品出しや片付け等の比較的簡単なお仕事からスタートし、ゆくゆくはお金を扱う会計業務に携わるなど、ステップバイステップで少しずつ仕事を覚えていけばいいのですが、ガイドのお仕事はそうはいきません。ガイドとしてご案内をする以上、たとえデビュー戦であっても1人でツアーを切り盛りしなければならないからです。   想像してみて下さい。皆さんが参加したツアーに新人のガイドさんがあてがわれていたとします。簡単なご案内のところは新人のガイドさんが担当して、難しいご案内のところはベテランのガイドさんが出て来て都度交代するみたいなことがあったとします。お客様の心理からしたら、それなら最初からずっとベテランのガイドさんが案内してくれればいいのに…となりますよね。



一方で飲食や販売等、実店舗での接客の場合、セクションごとに担当者が変わっても、そもそも分業制の場合も多く、あまり違和感はないかもしれません。その人の能力や習得状況に応じて担当する業務を増やしていける接客と異なり、ガイドと名乗る以上、その人がツアーの最初から最後までお客様に向き合わなければならないのです。これは新人のガイドさんにとっても大きな負担ですが、育てる側にとっても大きなリスクです。ある意味でイチかバチかみたいな部分があります。時間をかけて育てても芽が出なかったり、「負担が大きいから…」と辞めてしまう人もいます。


豊洲市場見学ツアーご案内中の様子。

空港と異なり、多くの人が一生に一度しか訪れる機会がないような施設の見学の場合には、ガイドの役割はますます重要である。



常勤のお仕事じゃないというのも一つの障壁です。例えば「週3でこの曜日とこの曜日には必ずお仕事がありますよ」という形の求人であれば、年間の収入もイメージできますし、お仕事以外の用事とのバランスもとりやすいでしょう。しかし、受注ベースで案件が発生するガイドの場合はそうはいきません。そもそもお客様からの依頼がなければお仕事が発生しないので、レギュラーワークとしての求人募集は出来ないのです。繁閑の差があることも大きいです。これは旅行業界全般に言えることですが、10月11月を中心とした、夏の終わりから冬の始まりにかけて需要が大きく膨らみます。一方で、1月2月はまさに閑散期。ガイドツアーの需要は大きく落ち込みます。たとえ不定期であっても、せめて年間通じてコンスタントに仕事があればよいのですが、お客様のニーズが先にあってのお仕事ですから、そう都合よくいくわけもありません。


また、情報量の多さをひとつの売りにしているうちのツアーは、求人の応募者にとっては高いハードルに感じられるようです。ミキキートスでは書類選考をパスして面接に進む応募者には、面接とセットで必ずツアーを見学してもらうようにしています。考えようにもよりますが、面接だけなら1時間ほどで済むところ、プラス2,3時間拘束されるのですから、忙しい人にとってはトンデモな選考プロセスといえるでしょう。しかし、実際の業務を見てもらわないまま採用すると、いざ研修を進めてみたらミスマッチが発覚し、リタイアしてしまう人が少なからずいるのです。そこでツアーの見学を必須にしたわけですが、いざ見学をすると「思っていたより大変そうなので辞退させてください…」というパターンも良くあります。そのたびに「いい人だったのになぁ…」とがっかりすることになります。まぁ、求職者と業務とのミスマッチを防ぐという意味においては、仕組みが正しく機能しているので、それはそれでよいことなのですが。


未経験者にはハードルが高い一方で、やりがいがとても大きいのもまたガイドのお仕事である。

もちろんお金の為に働いているわけだが、それを忘れてしまうくらいの喜びや楽しさを感じることもしばしば。


ただ、応募する段階で、そもそもガイドというお仕事を甘く見ているようなケースもあります。ガイドというお仕事の奥の深さは、言葉で説明することが大変難しいです。メインの業務であるガイディングに加えて、参加者の安全を確保し、施設や他のお客様に迷惑をかけないように誘導しながら、時間管理もしなければなりません。それでいて謙虚な姿勢を保ちつつ、なおかつお客様を楽しませなければいけないのです。ある意味においては、世の中に数多あるお仕事の中で、一番難しいものの1つといえるかもしれません。ホスピタリティはもちろんですが、ある程度センスが必要なお仕事でもあります。


さらに言えば、ガイドが出来れば誰でも良い訳ではありません。たとえ経験者であっても、ミキキートスのブランディングを考え、条件から外れる方は採用しません。たまに不採用の連絡をすると「なぜ私が不採用なのか理由を教えてください」と怒りをぶつけてくる方がいるのですが、それを受けて「やっぱり採用します」とはならないわけですから、潔く諦めてほしいものです。確かにその人からしたら、このキャリアで落とされるわけはないだろうというお気持ちがあってのことと思うのですが、自社のブランディングを考慮し、総合的に判断をして選考を進めているので、そこはご理解頂きたいところです。


というわけで、ただでさえ応募者が少ない上に、選考の基準を高くしている為、なかなか採用が出来ず、人手不足が解消されない状態が続いているわけですが、やはりガイドは人物・人柄が全てです。頭数を揃える為だけに妥協して採用をすることは、短期的には良くても、長い目で見たら避けるべきです。過去には、妥協して採用を行ったこともありますが、何ひとつ良いことはありませんでした。現場でのホスピタリティが圧倒的に足りない方、副業であるとはいえガイドのお仕事を舐めているような態度や発言をする方、お給料が発生する研修なのにカルチャー講座でも受けているかのような緊張感のないスタンスで参加し、それをたしなめると逆ギレして辞めていくような方までいました。




成田空港校外学習プログラムご案内時に着用できるよう作成したオリジナルのうなりくんTシャツ。通称“うなT”。

基本服装は自由だが、小道具をうまく使って子供たちの興味を惹くことも大事。


1円もお金を生まずに、研修の終盤でドロップアウトしてしまう人もいます。そんな時には徒労感が半端なく襲います。研修にかかったお給料・経費・割いた時間はもちろんですが、何よりも期待を打ち砕かれるのが本当に辛いのです。逆に言うと、手塩にかけて育てたガイドが無事にデビューした時の喜びは計り知れないものがあります。つい先日も、成田空港校外学習プログラムの担当ガイドが1名無事にデビューを果たしましたが、本人はもちろんのこと、私ともう1人の研修担当の喜びは言葉に表すことができないほどのものでした。そういう部分も含めて、ガイドはつくづく人と向き合うお仕事なのだと、改めて感じたところです。


2024年の半分が過ぎようかというタイミングですが、今年に入ってからの採用は今のところたったの2人に留まります。おひとりは残念ながら研修の途中でリタイアとなってしまいました。もう1人の研修が今まさに始まろうとしているところですが、果たして吉と出るか凶と出るか…。お客様と全力で向き合うのと同様、研修生にもただただ全力で向き合うのみです。


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ミキキートス庭野大地
庭野 大地

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人も楽しめる社会科見学」「親子でまなぶ」をコンセプトに、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
コロナ禍では事業に大打撃を受けるが、オンラインツアーコンテンツに参入し、難局を乗り越える。
アフターコロナでは「社会科見学をエンタメに!」をスローガンに掲げ、新しいツアー企画に挑戦するなど、多忙な日々を過ごす。


WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/


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