2021-12-01

第7話 職業訓練校時代④

第7話 職業訓練校時代④

思い出のバス研修(後編)~卒業そして就職


“楽しい”昼食の後、同じく昇仙峡にある“世界初の影絵美術館”である影絵の森美術館をゆっくりと見学することに。ここも後に実際の添乗の仕事で訪れる機会があったので、結果としてだいぶ実践的な研修となりました。添乗業務は現場を訪れた経験こそが物を言う仕事なので、デビュー前に訪れることができたのは即戦力への近道でもあります。余裕を持った滞在時間が設定されていたので、持て余した時間を隣接するレストランで過ごしていました。コーヒーを飲みながらレポートを作成していると、「N」さんがやってきて他愛もない話をしました。「N」さんは私とは全く別の世界に生きているようなタイプの人で、筋が通っていて要領がよく、なんでもござれな度胸のあるタイプの人でした。別会社ではあるものの、後々同じ添乗員の職に就くことになり、現場でも何度か遭遇したりと何かと縁がありました。ありがたいことに、彼女とは10年以上経った今でもたまに連絡を取りあう友人です。


(バス研修当日の朝、新宿西口にて。筆者(左)と今でもたまに連絡を取り合う仲のNさん(右))


さて、時間が経つのはあっという間で、バスは新宿に向けて走り出しました。暗くなった高速道路を走るバスの車内では、まだ”朝のあいさつ”が行われていました。変に貫禄だけあるはったり満載な感じの人から、私と同じく真面目に話そうとしてフリーズしてしまって笑いを誘う人、運転手さんの紹介で「ジョイフル観光の〇〇さん」と紹介しなければいけないところを「〇〇観光のジョイフルさん」と言い間違える人まで、個性豊かな”かくし芸大会”が続き、旅の終わりに花を添えました。


バス研修=旅程管理研修の実地研修を終えた私たちは、学科試験さえパスすれば晴れて添乗業務に就ける「国内旅程管理主任者」の資格を手にすることが出来ます。授業は残り半月ほど、職場実習1か月を残すあたりで、それぞれ進路を真剣に考えるタイミングとなっていました。私は、この時点で添乗員になることに決めていたので、情報収集をしながら、会社説明会に参加したりしていました。前にもお話したと思いますが、必ずしも全員が旅行業界に就くわけでもなく、就職のことは職場実習が終わってから考えればよい切羽詰まってない人たちも多くいたため、クラス内でも温度差が出始める時期でもありました。


残りのカリキュラムも少なくなってきて、最後のグループワーク「海外ツアー企画」がスタート。こちらはもちろん企画のみで実際に現地に旅行で行けるわけではないのですが、「あーでもないこーでもない…」と言いながら、素人たちが一生懸命ツアーを組み立てていくという、なんともほほえましい作業でした。本当は航空券の仕入れや、ランドオペレーターの手配などについて教えてもらえればよかったのですが、特にそういう本格的な指導はなかったため、国内バスツアーよりもさらに自由度の高いツアー内容となっていきました。私たちのグループはオーストラリアを周遊するツアーを考えたのですが、ケアンズ、シドニー、メルボルン、エアーズロック、パース…のような、実際にはまずあり得ない欲張りな周遊プランを作成。値付けも「サンキュープライス税込み39万3939円!」と適当に付けました。本当は発表会に私も出たかったのですが、就職を希望する会社の試験と重なってしまい、発表会は私だけ欠席することになり残念でした。同時に、それまで続いていた皆勤賞もそこで途切れることになったのです。


本来であれば座学が3か月+職場実習が1か月のデュアルコースなので、卒業は2月末のはずでしたが、 私が就職を希望している添乗員派遣会社は2月入社だったため、1月末で退校手続きをすることになり、私の職業訓練校生活は終わりを迎えました。就職の為に通っていた職業訓練ですし、本来であれば早く卒業できることは嬉しいことのはずでしたが、他のクラスメイトより1か月も早く卒業することがとてもさみしく、また残念に思えました。


私が就職を希望し、運よく採用され、実際にお世話になることになったのは、数ある添乗員派遣会社の中でも最大手の部類に入る会社でした。業界の中ではお給料が高い方であることに加え、研修が充実していることが何よりも大きな決め手となりました。私のクラスメイトの中でその会社を選んだのは私を含めて3人いました。その中でも特に「Y」さんとは仲が良く、気心知れた人が同期入社ということで、不安ながらも大変心強かったです。そんなこんなで、いよいよ入社研修がスタートするのですが、その話は次回お話しすることにします。


2月末日、1か月の職場実習を終えたクラスメイトが集い、本当の卒業式が行われることになりました。私はすでに退校していた身でしたが、お願いして式に混ぜてもらいました。進路がすでに決まっている人たち、そうでない人たちと両方いましたが、互いの健闘を祈り、教室を後にしました。短い在学期間ではありましたが、添乗員同期の「Y」さんや先述の「N」さんをはじめ、10年経った今でもたまに連絡を取り合える友人が出来たことはかけがえのない財産です。母校として、今でも私の心のよりどころの一つとなっています。


さて、私の大きなターニングポイントとなった職業訓練はあっという間に過ぎ去りました。もう二度と訪れることもないと思っていた教室で、のちに自分が羽田空港研修の講師として教壇に立つことになろうとは、この時は夢にも思っていませんでした。


庭野大地
庭野 大地

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。


WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/


イヤホンガイド導入に関して
お気軽にお問い合わせください