2022-06-09

第27話 ガイド時代⑦

第27話 ガイド時代⑦

ピンチはチャンス!コロナ禍での新しい発見


豊洲市場フィーバーのおかげで、2019年には私以外に4人のガイドを擁するまでに事業が成長してきていました。そのうちの1人は、常勤としてガイドの傍ら、営業や事務の役割も担って頂き、事業拡大に大きく貢献して頂きました。売り上げも順調に伸びてきていましたので、そろそろ法人化を…と考えたり、これまで対応できていなかった英語でのご案内に対応して、インバウンドの需要も獲得していきたい…と夢は膨らんでいきました


しかし、その儚い夢はあっさりと打ち砕かれることになります。年が明けて2020年、新型コロナウィルスの脅威が日本にじわじわと忍び寄り始めていたのです。多くの方がそうだったように、私も新型コロナウィルスの猛威がここまで長期的に深刻な影響を及ぼすものになるとは想像すらしていませんでした。2月から団体予約のキャンセルが相次ぎ、売り上げはほぼゼロになっていて、経費のみが出て行っている状況が続いていました。インバウンド事業の準備に着手したり、新しいガイドさんを雇用し教育をスタートしたところでしたが、全てをストップしなければいけなくなりました。


そんな中、どうにかこの現状を打破できないか…と、当時まだ1人だけ在籍していたインバウンド対応要員の常勤スタッフと相談し、オンラインツアーを実施しようと言い出したのは4月中旬くらいのことでした。当時、オンラインツアーという業態は世間にはまったく認識がされていない状況で、いわゆるブルーオーシャンでした。画面越しに観光体験を提供することが果たしてビジネスとして成り立つのだろうか…と、私自身も大いに疑問を抱きながらのチャレンジとなりました。


オンラインツアーには大きく分けて2種類あり、観光地でカメラを回しながらリアルタイムで現地のご案内をするタイプのものと、画像や動画など、事前に収録したものをプレゼン形式でご紹介するタイプのものに分かれます。私たちは、電波の問題や現地で起こりうるあらゆるトラブルを回避できることと、じっくり掘り下げてご案内をしたいという思いから、後者のプレゼン形式のオンラインツアーを提供することにしました。新型コロナウィルスの未知なる脅威の前では、自宅から配信できることで、感染のリスクを冒さなくて済むことがとにかく大きなメリットでした。


しかし、元々オンラインツアーをやろうと思って素材を撮りためていた訳ではなく、少ない動画と画像にて対応を強いられることになります。そこで、“ツアー”としての動きが少ないのをなんとかカバーしようと、Google Earthのプロジェクトという機能にたどり着き、Enterキーを押すことでどんどん地図上を移動していく術を身に着けました。お客様のニーズは圧倒的に現地からの配信である中で、プレゼン形式でオンラインツアーを提供しようとする私たちとって、このGoogle Earthの存在はとても大きなものでした。特に、普段見ることが出来ない俯瞰したアングルからのご案内が可能になったことや、移動時間の制約がなくなったことで、ご紹介したいスポットにお客様をあちこち “連れ回す”ことが出来るようになったのもこのスタイルならではのものでした。


6月上旬、難産の末ようやく成田空港見学ツアーONLINEが出来上がり、オンラインツアーのご案内開始にこぎつけました。蓋を開けてみると、お客様からの反応は概ね好評で、「楽しかった」と感想を頂くことも多く、参加者も徐々に増えていきました。


そして、オンラインツアーならではの大きなメリットがもう1つあります。あくまで旅行関連業のツアー業者であり、いわゆる旅行会社ではない私共では通常取り扱うことが出来ない海外旅行についても、オンラインなら取り扱えるということです。海外在住または海外経験が豊富で現地事情に詳しいガイドさんを募り、一緒に企画を作り上げて順次販売していきました。多い時には募集ツアーで50名近いお客様が参加して下さるようなこともあり、さながらプチバブルの様相を呈していました。私もオンライン添乗員としての役回りに徹しながら、世界各国をお客様とオンラインで旅してまわりました。


(オンライン海外ツアーの主催者として、2度目のラジオ出演を果たした筆者


しかし、夏休みに入りGoToトラベル事業がスタートすると、オンラインツアーの需要は急減します。それと反比例するように、オンラインツアーに参入する事業者がどんどん増えていき、需給バランスが大きく崩れていきました。秋以降は募集型のオンラインツアー、特に海外のツアーはほとんど売れない状況になってしまいました。


しかし、このような追い詰められたシチュエーションの中で、現地ツアーだけやっていた頃には想像していなかった様々なニーズに気が付くことになります。1つは親子(子ども)向けツアーの設定です。キッズウィークエンドという媒体にお声掛けを頂き、「親子向けのオンラインツアーをしてみませんか?」とご提案を頂いたのです。実は、夏休みに親子企画のオンライン成田空港見学ツアーを少しだけ販売してはみたものの、あまりパッとせず、すぐに販売を取りやめていました。子供たちの学びのプラットフォームになっているこの媒体なら売れるかもしれないということで、内容に少し修正を加えて販売してみたところ、多くの方にご参加頂くことが出来たのです。これまでいわゆる「大人の社会科見学ツアー」をテーマにツアーを企画してきた私にとって、この成功体験は非常に有意義なものでした。


ピンチはチャンスとよく言いますが、コロナ禍で追い込まれたことにより、沢山のことに気付かされ、新しい可能性に気が付くことが出来たのは本当に大きな収穫でした。今後は現地ツアーにおいても親子企画をうまく取り入れて、コロナ前にはリーチできていなかった新たな需要を掘り起こそうと考えています。そして、コロナ禍で培ったオンラインツアーのノウハウや動画コンテンツの強みを生かして、何か新しいことが出来ないだろうかとあれこれ目論んでいます。


庭野大地
庭野 大地

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。


WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/


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