第24話 ガイド時代④
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豊洲市場の移転延期がもたらしてくれたチャンス


国会議事堂見学ツアーが成功し、空港のみをご案内するツアー業者からの脱却に成功しました。そして、その勢いが衰えないうちに次のツアーも企画してしまおう!と目を付けたのが築地市場でした。本来であれば、既に豊洲への移転が済んでいるはずでしたが、小池都知事の判断で待ったがかかり、移転が2年遅れになっていました。その判断に翻弄され、大変な思いをしている関係者が多いことが連日のようにニュースやワイドショーで報道されていましたが、実はこの豊洲移転の延期こそが、ミキキートスにとって大きなチャンスを掴むきっかけとなったのです。


連日のように報道されることで話題になっていましたし、移転前に築地市場を見ておきたいというニーズも多いだろうと考え、ツアー企画に着手することになりました。ただ、国会議事堂の時と違い、築地市場に関する知識がほとんどありません。ここについては空港の時と同様に、いや、それ以上に勉強をする必要がありました。実は添乗員時代にも築地市場を訪れたことがあったのですが、お客様は自由昼食ということで、バスを降り「行ってらっしゃいませ」とお見送りをした後、ろくに見学もせず、当時築地四丁目の交差点にあったサイゼリヤに入ってのんびり過ごしてしまっていたのです。これもある意味では添乗員の守備範囲が広すぎることの弊害で、観光地を訪れてもあまり興味がない時には、休憩を優先して見学をせずに終わってしまうなんてこともあったりします。


とりあえず、築地に関連する書籍をひたすら読み漁ったり、他社が催行している築地ツアーに参加したりして、勉強を重ねました。既にガイドツアーがあるということは、勉強をする意味では大変役に立つのですが、販売をする面においては大きなハンデとなります。そこはやはり差別化を図らなくてはならないということで、築地場内市場・場外市場に加え、勝どき橋や裏築地と呼ばれるエリアもご案内することにし、なんとかツアーの企画をまとめ上げました。


元々は9月に開始する予定でしたが、思うように準備が進まず、11月になってようやく築地市場見学ツアーが日の目を浴びることになります。国会のポップなツアータイトルが好評だった為、同じ路線を引き継ぎ「おいしい築地ぐるり散策ツアー -やさしい市場入門-」というタイトルにしました。築地は他のガイドツアーが既に実施されていることもあってか、国会と異なり、すぐにヒットとはいきませんでした。ただ、そこそこ集客はあり、空港・国会に続き、3つ目の大きな軸に成長することが予想されました。


築地はお昼過ぎにはほとんどのお店が閉まってしまう為、他のツアーと異なり午前中しか設定が出来ません。そこで、効率よく稼働する為に、午前中は築地市場、午後は国会議事堂または成田空港のように、2つのツアーを同じ日の午前と午後に設定するようになりました。当然荷物も多くなりますし、築地→成田空港の移動などは1時間半くらいかかるなど、大変なことも多かったですが、自分が企画したツアーでお金を稼げて、お客様にも喜んで頂けているという状況がただただ嬉しかったのです。ガイドという仕事そのものは勿論のこと、商売という面でも楽しさが分かり始めた頃でした。


築地のご案内では、やはりグルメの情報が大事になります。国会も空港もグルメ情報はほとんど必要なかったのですが、築地とグルメは切り離せません。一番理想的なのは全てのお店を食べて回ることだと思いますが、予算的にも時間的にも間に合いません。そこで、ここは押さえておかなければならないというお店を何店舗か食べて回り、それ以外のお店については、築地をテーマにしてまとめられたグルメ本の情報を、あたかも食べたことがあるかのようにご案内することでカバーしました。「食べたことがあります!」と胸を張ってご案内できないことに若干の後ろめたさはありましたが、お店ごとの特色をご案内することは出来たので、最低限のガイドの役目は果たせました。そして、ツアーのご案内で築地を訪れるたびに食事をするように心がけ、本で得た知識から経験に基づくご案内へと徐々にアップデートしていきました。


あと、築地のご案内で苦労したのは土曜日の混雑です。市場は日曜日がお休みの為、自ずと土曜日に客足が集中します。雑多な雰囲気が市場らしいと言えば聞こえはいいですが、迷子が発生するのではないかと毎回ひやひやするほど混んでいました。幸い、ガイディングレシーバーがあることで、迷子にならないよう呼び掛けながら進行することができ、大きな迷子こそ発生しませんでしたが、お客様が遅れてくるというようなことはしょっちゅうありました。場所が場所だけに、どんなものが売っているのか興味津々で、ガイドそっちのけで夢中になってしまっているお客様も多かったのです。あと、車両との接触がないように注意を払わなければいけない点も、他のツアーにはないものでした。


(在りし日の築地市場を走行するターレ)


豊洲市場には多くの見学者が訪れることを見越して見学者通路が整備されましたが、築地は見学する前提の設計がされていません。それがゆえに、市場の中に入り込んで、市場で働く人達と同じ目線で見学をすることができました。一方で、市場関係者からすればいい迷惑でもあり、業務の妨げにならないように十分配慮することが求められました。場内ではターレと呼ばれる業務用トラックがひっきりなしに走っていますが、業務車両優先ということで、ブレーキをかけることもなく容赦なく突っ込んできます。お客様にはその事情を説明して、いざと言う時には自分の判断で横断を止めるよう念を押した上で、なるべくかたまって道路を横断するよう誘導するなど、苦労が絶えませんでした。しかし、それこそが市場のリアルであり、参加者にとっても記憶に残る”体験”になったに違いありません。


庭野 大地
庭野 大地 Taichi Niwano

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。

WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/