訪れた転機~長いトンネルの出口が見えた国会議事堂見学ツアー~
諸般の事情から成田空港見学ツアーのみを提供するツアー業者となりましたが、東京都心から遠い成田空港は、その魅力とは裏腹に集客に大変苦労しました。コンスタントに申込みはあるものの、1回あたりの参加者が少ない為、ビジネスとしてはなかなか厳しい状況が続いていました。とはいえ、まだ初めて1年ちょっと…暖簾を下ろしてしまうにはまだ早すぎます。仕方なく、いろいろと短期間のバイトをして何とか食い繋いでいました。
そんなこんなで成田空港のみのご案内となってから1年ほどが経過した2017年4月、ミキキートスにとって大きな転機が訪れます。国会議事堂の見学ツアーを企画することになったのです。実は、国会議事堂は添乗員として、小学校の社会科見学等の引率で数えきれないほど訪れていました。その経験からツアーを実施する機運はありそうなものでしたが、国会議事堂は無料で見学が出来るスポットである上に、見学中は衛視(えいし)という衆議院・参議院それぞれの職員の指示に従っての見学となる為、ここに商機はないだろうと、選択肢から除外していたのです。
成田空港のみでは経営が苦しい状況もあり、なんとしてでもこの企画を成功させる必要がありました。とはいえ、元々無料の見学が用意されている国会議事堂のみのご案内では、ツアー商品として成り立ちません。他社で国会議事堂見学ツアーを実施しているところがありましたが、国会議事堂の見学にホテルのランチバイキングをセットにすることで商品化していました。それと同じような商品を作っても、後発で零細な事業者に勝ち目はありませんので、少し視点を変えてみることにしました。政治の代名詞にもなっている”永田町”という街に注目してみたのです。
国会議事堂の周辺には国会に関わりのある施設が沢山あります。例えば、首相官邸や国会議員会館などはテレビなどで目にする機会はあったとしても、どのような趣旨の建物であるのかは意外と知られていません。それらの施設のご案内をセットにすれば、興味を持って参加してくれるお客様もいるのではないかと考えました。そこで、国会議事堂内部のご案内に加え、議員会館*・首相官邸*・国会記者会館*・国立国会図書館*・憲政記念館・国会前庭(*は外観のみ)をセットでご案内するという、内容盛りだくさんのツアーを企画することにしました。ツアータイトルは「国会議事堂&永田町おさんぽツアー」としました。”おさんぽ”というキーワードを入れることで、国会議事堂の堅苦しいイメージを払拭し、政治を身近に感じてもらえるようなツアーにしたいという思い入れの詰まった名前です。そしてこのツアーはまさかの大ヒットをたたき出すことになるのです。
定員は当初8名様と少な目に設定していたのですが、初回からずっと満員御礼が続き、嬉しい悲鳴を上げることになります。長いトンネルの出口が、ようやく見えてきたような気がしました。
(国会議事堂見学ツアーに参加した友人に撮ってもらった筆者)
そして運がいいことに、国会議事堂ツアーに関してJFN系列のラジオ番組への電話出演と著名な週刊誌でご紹介頂けるという話が立て続けに舞い込んできました。うまくいかない時はちっともうまくいかないものですが、うまく行く時は立て続けにうまくいくという好循環が起きているように思えました。電話出演とはいえ、初めてのラジオは大いに緊張して、大変ぎこちないものになってしまいましたが、これまで空港見学ツアーだけを細々と展開してきたミキキートスの名前を、広く知ってもらうきっかけになりました。
ところで、この国会議事堂見学ツアーですが、議事堂内のご案内には大変骨を折ります。理由としては次の2点です。
ひとつは自分たちのペースでご案内ができないということです。国会議事堂内は衛視さんの誘導・指示の下見学をする必要があります。例えば、とある場所でご案内したいことがあったとしても、衛視さんに移動すると言われたら速やかに移動しなければなりません。さらに、天候や議事堂の事情によって、見学の順番や通るルートが変わることもあります。
もうひとつは、衛視さん自身もご案内を行うことがあるという点です。一般の見学者の為に、衛視さんがところどころで足を止めてご案内をすることがあるのですが、案内する内容も、混雑状況や衛視さんのサービス精神によって、多かったり、ほとんどなかったり、様々です。衛視さんがご案内をしている時にはその案内を聴いて頂くのがベストですから、ガイドは口を閉じる必要があります。そして、衛視さんが説明した内容は、二番煎じのご案内になってしまう為、ガイドとしては見せ場が減ることにもなります。サービス精神旺盛な衛視さんの場合には、ご案内しようと思っていたことをほとんど言われてしまい、ガイドとしてご案内が出来ないというようなこともあります。
ガイドはこれらの状況を見極めながら、臨機応変にご案内をしなければなりません。衛視さんがご案内していないトピックや、ご案内の中で端折られたものがあればそれを補足する内容を、衛視さんの邪魔にならないようにガイディングをする必要があるのです。ある意味で、今私共で手掛けているツアーの中で、一番難易度が高いのが国会議事堂見学ツアーと言えるかもしれません。
ツアー商品が2つになり、リピート顧客としてもう1つのツアーに参加して下さるお客様も徐々に増えてきました。また、レンタルで使用しているガイディングレシーバーも、2つのツアーで使い回せるようになり、使用単価が下がり効率も良くなりました。集客や販売方法のノウハウも少しずつ積みあがってきて、創業当時とは比べ物にならないほど安定感が増してきていました。

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。
WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/