第22話 ガイド時代②
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羽田から成田へ!辛うじて消えずに済んだ事業の灯火


初企画の「羽田空港見学ツアー」が売れたことで、ようやく事業が形になりました。実は、羽田空港以外にもいくつか企画をしたものがあったのですが、そのいずれもが全くと言っていいほど売れませんでした。案ずるより産むがやすしは、なんでも通用するものではなかったのです。結果として、目下売れている空港見学ツアーに依存していくことになりますが、商品であるツアーが1つしかないという、ツアー業者として大変悩ましい状況でした。


さて、今回はツアーで使用しているツールについてお話させて頂こうと思います。添乗員時代の経験を基に、予め導入しようと決めていたがモノありました。それは、「ガイディングレシーバー」と呼ばれる観光案内用の無線機器です。よく「美術館や博物館で使うやつでしょ?」と言われますが、もしかすると多くの方がイメージされるのは、事前に録音されたガイド音声をボタン操作で聞くことが出来る機器の方かもしれません。しかし、ガイドがそこにいるわけですから、事前収録したものを聴いて頂くわけではありません。ここでいうガイディングレシーバーとは、ガイドがご案内した音声を、イヤホンを通してリアルタイムで参加者の耳に届ける機器のことです。そして、機器の性能にもよりますが、概ね50m~100mほど離れていても音が聞こえるものになります。


なぜこの機器が必要なのか…
私が添乗員として働いていた時に、現地ガイド付きの観光で目にした残念な光景は次のようなものです。後ろの方にいるお客様が「聴こえません!」と声を出したり不満そうにしている様子と、聴こえないものと割り切り、ガイドの案内はないものとして見学しているお客様の様子です。ガイドの方も決して小声で話しているわけではないのですが、環境音にかき消されてしまったりして、なかなか全てのお客様に声が届きません。また、見学には移動がつきもので、移動を繰り返しながらご案内をしていくことになりますが、歩くペースは人それぞれです。後ろの方を歩いている方がようやくその場所に着いたと思ったら、ご案内の核の部分は終わってしまっていて、またすぐに移動しなければならないというような悪循環に陥る様子も良く目にしてきました。もちろん、時間的な制約もありますので、致し方ない面も多々あります。


ガイディングレシーバーを導入することで、この問題はあっさりと解決することが出来るのですが、機器の導入にはお金がかかりますし、レンタルも決して安くない為、普及率が大変低いものになっています。ミキキートスでは、お客様にそのような思いをしてほしくないということで、これまでに販売してきたすべての現地ツアーでこのガイディングレシーバーを使用してご案内をしてきました。受付で渡されてびっくりするお客様も多いのですが、ツアー終了時には「この機械があってよかった~」とおっしゃる方も多く、大変好評です。ちなみにガイディングレシーバーは一般名称となり、私共で現在使用しているのは、株式会社ケンネットが取り扱う「イヤホンガイド®」となっています。


ガイディングレシーバーに加えて、ご用意しているもう1つのツールが「小冊子」になります。ご案内する内容が社会科見学的要素の強いものである為、ご案内の中に数字が出てきたり、専門用語が出てきたりすることがあります。また、1つのトピックを立体的・体系的にご案内をする為にイラストや図が必要だったりします。その為、手作りの小冊子を作成し、配布したものをツアー中に読み合わせしながらツアーを進行するというスタイルを採っています。


当初はツアーが売れるかどうかも分からず、必要数も少なかった為、文字通り”手作り”で対応していました。前日までのツアー申込人数分をコンビニのコピー機で印刷し、それを製本用のホチキスで止めるという途方もない作業をしていました。カラー印刷が理想的ですが、コピー代が5倍かかることもあり、最初は全て白黒印刷の物を作成していました。その後、少し軌道に乗ってきたタイミングで、カラーの冊子をネット印刷業者に発注するようになりました。毎回”手作り”しなくてよくなり、手間が大幅に減ったのは勿論ですが、1冊当たりの印刷コストも、コンビニで白黒コピーしていた時よりも安くなったのには驚きました。


特にカラーの冊子になってからは、お客様に喜んで頂けるようになりました。持ち帰ってもらえばお土産話のネタにもなりますし、他のツアーの宣伝にもつながるという魔法のツールでもあります。お客様によっては邪魔だからと、カバンの中にすぐしまってしまう人もいます。ご案内の資料として使うと分かると、皆さん慌ててカバンの中をゴソゴソし始めるのもおなじみの光景となっています。


ということで、ご案内をより楽しんで頂く為に生み出した、この
ご案内 × ガイディングレシーバー + 小冊子
というスタイルは、今でもミキキートスのツアーの基本となっています。


(ツアー開始当時に使用していたガイディングレシーバーと配布していた白黒の冊子)


ツアー開始から半年後の12月には、羽田空港で培ったノウハウを生かして「成田空港見学ツアー」もスタートすることになりました。同じ空港というテーマではありますが、国内線中心で発着量が多い羽田空港に対して、国際線中心で反対運動の歴史を持つ成田空港では全く違う切り口でのご案内となります。成田は添乗員時代に利用することが多かった思い入れの強い空港ということもあり、ご案内には自ずと熱が入りました。


翌年の春、残念なことに羽田空港見学ツアーが諸般の事情から販売を終了することになってしまいます。羽田空港のターミナルは民間の施設ですので、施設様のご意向に従う必要があります。引き続きご案内したい気持ちは大いにあり、折衝の場も設けて頂きましたが、継続は認められず万事休す。こればかりは諦めるしかありませんでした。


一方で成田空港ではツアーの実施が認められた為、ミキキートスの事業の火は辛うじて消えずに済みました。しかし、1つのツアーしかない状態では、大きな売り上げもリピートも見込めず、新しいツアーが生まれるまでしばらく苦しい時間が続くことになるのでした。


庭野 大地
庭野 大地 Taichi Niwano

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。

WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/