第18話 添乗員時代⑪
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トラベルの語源はトラブル?悲劇はまとめてやってくる


とある学校の研修旅行で、オランダ・ベルギー・イギリスの3か国周遊の添乗がアサインされました。いずれの国も添乗経験が乏しかったのですが、幸い職業訓練校時代の同期で親友でもある「Yさん」がオランダ・ベルギーに詳しいので、いろいろとレクチャーをしてもらい、なんとか業務に臨むができました。研修旅行ということもあり、いわゆる観光と違って行く場所もレアなスポットが多く、予算の関係かガイドもほとんどついていないというレベル高めのお仕事でした。


さて、私は生まれつき運が悪いタイプなのですが、これまで添乗のお仕事で大きなトラブルに見舞われることなくやってきました。もちろん小さなトラブルは日常茶飯事ですが、致命傷は避けてきました。しかし、こんな難易度の高い添乗の時に限って、トラブルは起こってしまうものなのです。


オランダ・ベルギーの行程をなんとか消化し、9日間のツアーも残すところ3日となっていました。最後の滞在地であるイギリスのロンドンに向かうべく、スキポール国際空港に向かいました。人の良さそうな空港送迎のドライバーにジョークを言えるくらい、その時点ではまだ余裕がありました。搭乗ゲートまで誘導し、再集合の時刻を伝え一旦解散。私は空いた時間でスキポール空港のフィールドワークをしていました。この頃はまだ飛行機や空港にそこまで興味津々ではありませんでしたが、次回仕事で来る時の為にどこに何があるかを確認しておきたかったのです。


再集合の時刻が近づき、私は搭乗ゲートに向かっていました。何気なく出発案内の掲示板に目をやると、私たちが乗る予定の便のところに“CANCELED”の文字が…。間が悪い私は、一番動揺しているそのタイミングで先生に遭遇しました。事情を説明し、生徒たちのケアを先生に任せて、振替便の手配をすることになりました。唯一運が良い点があるとしたら、生徒たちに待機をしてもらっている場所と振替便の手配を交渉するカウンターが離れていることでした。多くのギャラリーを後ろに携えての”はじめてのおつかい”はさすがに刺激が強すぎます。


想像していたよりはスムーズに振替便が決定しました。分便も避けることが出来、席こそバラバラにはなってしまいましたが、同じ便で移動できることになったのも大きな安心でした。タイムロスも30-40分ほどで済むことになりました。ただ、その時点で1つの問題と1つの嫌な予感がありました。

振替便のチケット[MRTCは男性添乗員。LCYはロンドンシティ空港を意味する3レター]
(振替便のチケット[MRTCは男性添乗員。LCYはロンドンシティ空港を意味する3レター])


1つ目は到着空港がロンドンヒースロー空港から、ロンドンシティ空港に変更になったことです。両空港は40キロほど離れており、空港送迎のバスとJSA(Japanese Speaking Assistant)のスタンバイ場所が大きく変更になることになります。急いでランドオペレーター(*旅行会社の依頼を受け、現地のホテルやレストラン、ガイドやバス・鉄道などの手配・予約を専門に行う会社のこと)に連絡をし、変更の手配を行いました。こちらはなんとか間に合いそうです。


そしてもう1つの嫌な予感の方ですが、ロスバゲ(*ロストバゲージ。空港で預けた荷物が行方不明になること)が発生するのではないだろうかという点でした。振替便の出発時刻が当初予定便のそれと近接していた為、荷物の積み替えが間に合わないのではないかと心配していたのです。その伏線の回収はすぐに行われました。1時間ちょっとの短いフライトの後、小さなロンドンシティ空港に降り立った私は、Lost and Foundの窓口で手続きをしていました。結果は1名がロスバゲ、1名がダメバゲ(*スーツケースが壊れていること)でした。ロンドンでは市内のホテルに3連泊で移動がなかったので、荷物さえ出てくれば確実に受け取れるのが不幸中の幸いでした。その生徒さんが滞在中に必要なものをどのように調達するかなどを先生方と確認し、あとは荷物がホテルに届くのを待つばかりです。空港からホテルに移動するバスの中にカメラを忘れたという申告もあり、トラブルに“華”を添えました。


すぐにとはいきませんでしたが、翌日の夜までにはスーツケースはホテルに届いたと思います。ロンドンでは自由行動の時間も多く確保されていたので、私も市内を観光したり、気の合いそうな先生とカフェでお茶をしたりして過ごしました。日当をもらいながらいい身分…と思うでしょうが、こういう時間もないとモチベーションが維持できないお仕事でもあります。一度訪れてみたかったアビイ・ロードの横断歩道にも行くことが出来ました。ひっきりなしに人が横断し、立ち止まり記念写真を撮っていて、通行を阻害された乗用車が渋滞しクラクションを鳴らす…という光景が延々と繰り返されていて、聖地のイメージと現実とのギャップに驚かされました。

The Beatlesのジャケット写真でおなじみの横断歩道はこのありさま。。。
(The Beatlesのジャケット写真でおなじみの横断歩道はこのありさま。。。)


さて、いよいよ帰国です。ここまでトラブルも多かったので、最後くらいはスムーズに…といかないのが実に私らしいのですが、ヒースロー空港で迷子が発生します。チェックイン後一度解散し、保安検査場通過前に再集合をする段取りだったのですが、生徒が2人見つかりません。あれこれ手を尽くしましたが、「もうこれ以上待てない!」というタイミングで保安検査場を通過すると、制限エリア内で無事に(?)2人とも発見されました。どうやら、保安検査に進む他の日本人客を自校の生徒と見間違い、自分たちも保安検査を受けてしまったとのことでした。


生徒と無事に再会できたのはよかったのですが、肝心な添乗員がセキュリティチェックに引っかかってしまい先に進めません。全く身に覚えはなく、出発時刻も迫っていたことから、少々苛立って保安検査の係員に尋ねると「ペットボトルの水が手荷物に入っている」とのこと。おおよそ添乗員とは思えない凡ミス中の凡ミスを犯してしまっていたのでした。迷子事件に気を取られ、本来であれば飲み干して捨てる予定だったミネラルウォーターをカバンの中に入れたままにしていたのです。トラブルが起きている時こそ、冷静に対応しなければいけないという良い教訓になりました。お待たせした先生方には、セキュリティチェックが世界的にも厳しいことで知られるヒースロー空港を悪者にして釈明し、”水”の話は闇に葬り去ることにしました。


庭野 大地
庭野 大地 Taichi Niwano

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。

WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/