第14話 添乗員時代⑦
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修学旅行の思い出~教育旅行の魅力~


皆さんは修学旅行に添乗員が同行していたのを覚えていますか?「バスガイドさんがいたのは覚えているけど、添乗員さんなんていたかな?」と思う方が多いのではないでしょうか。添乗員になってから分かったことですが、いわゆる修学旅行にはほぼ間違いなく添乗員が同行しています。今日はそんな修学旅行でのエピソードをご紹介させて頂きます。


私は埼玉県に住んでいたので、同じ埼玉県内の小学校の添乗に就くことが多く、国会議事堂をはじめとした社会科見学、夏場の林間学校、冬のスキー教室(冬季林間学校)、そして日光修学旅行のお仕事をさせて頂く機会が多かったです。特に国会議事堂については、のちに自分で見学ツアーを立ち上げるきっかけにもなっており、大変良い経験をさせて頂きました。私は事情があって小学生の時に国会議事堂を訪れておらず、大人になってから一度だけツアーで見学をしたことがある程度でしたが、まさか小学生を引率する立場で数十回も入場することになるとは思ってもみませんでした。


さて、同じ修学旅行でも宿泊を伴うものは別格です。特に埼玉県内の小学生が6年生の時に訪れる日光の修学旅行は、卒業前最後ということもあり、児童の皆さんにも一生の思い出になる一大イベントではないでしょうか。修学旅行ですから当然定番のコースがあります。二社一寺として世界遺産に登録されている日光東照宮は勿論のこと、日本三名爆の一つに数えられる華厳ノ滝、男体山の噴火によってせき止められて出来た中禅寺湖、そして戦場ヶ原のハイキング…このあたりは定番中の定番かと思います。そこにアレンジとして、奥日光湯元温泉、龍頭の滝、日光江戸村、東武ワールドスクウェア、足尾銅山などが学校ごとに追加されるイメージです。


(奥日光湯元温泉の源泉見学中の児童達)


修学旅行はお勉強が第一の目的であることに加え、児童の安全が最優先となる為、一般の観光の時と添乗員の動き方が大きく違います。まず、受注型企画旅行となりますので、校長先生もしくは引率の責任者である先生の意向が最優先となり、行程変更の必要がある場合などは必ずお伺いを立てる必要があります。とはいえ、先生方に判断を全て丸投げしてしまうのも考えもので、添乗員の立場として「経験からこういう選択肢がありますよ…」と誘導し、うまく軌道修正していくスキルが求められます。勿論、その誘導は失敗することもありますが、その時は運を天に任せるしかありません。


バスでの移動時間の車内はにぎやかです。往路は児童達がバスレク(バスレクリエーション)で歌を歌ったり、クイズなどの出し物をしているのを聞いているか、バスガイドさんの案内を聞いているかですし、復路はお約束とも言える児童向けのアニメDVD上映会が行われます。添乗員はバスの前方に座る必要がある為、先生の近くに席を頂きますし、“運が悪い”と先生の隣の席になってしまうこともあります。特に復路は添乗員も疲れ切っていることが多く、DVDが流れている間にはついウトウトしてしまうこともあるわけですが、そんな時に先生が隣だと眠気との闘いで生き地獄のような状態となります。


さて、添乗員として修学旅行で一番楽しみなのは、児童の無邪気なふるまいだったりします。自分が子供だった時を思い出させてくれるというのもありますし、とにかく彼らは純粋で元気ですから、そこから元気をもらったり、改めて勉強させられることも多いわけです。話し出すときりがないので、今回は夕食の時に遭遇したとある男の子のエピソードをご紹介します。


学校によっては1日目からホテルの売店等でお土産を買う機会を設けている場合があります。決められた予算の範囲で買い物をしなければいけないのは勿論ですし、木刀を買ってはいけないのは言うに及ばずですが、あくまでお土産として買うわけですから、帰宅するまでは開封して使ってはいけないというルールになっています。ところが、夕食でテンションがMAXになった児童は無敵です。そんなルールなどすっかり忘れて、お土産として購入した腕に着けるブレスレットのようなものを着用しながら、ハイテンションで夕食を食べている一人の男の子がいました。とてもよく食べる子で、おかわりもハイペース。ただでさえテンションが高いところに、おいしい夕飯のメニューでいくらでも食べられてしまうような状況だったことでしょう。私は先生方と同じテーブルで食事をとっていましたので、先生方がその男児のことを食事が終わった後に呼び出して指導するというのを耳にしていました。約束のルールを破っているので仕方がないとはいえ「あぁ、気の毒に…」と、ただただ同情していました。


ごちそうさまをして、片付けが終わったタイミングでその男の子が呼び出されました。考えさせる学習ということで、先生はその子に「どうしてここに呼ばれたか分かるか?」と尋ねました。先生の呼び出しに直面し、テンション最高潮から一気に奈落の底に叩き落された彼は、ただただ動揺し、状況を理解するので精一杯という様子でした。1分ほど時間が過ぎたでしょうか。ようやく彼が蚊の鳴くような声で言葉をひねり出しました。


「あの…、おかわりをし過ぎましたでしょうか?」


教育的な指導をする場面にはおおよそ似つかわしくない回答を耳にし、先生方はもちろん、私も必死に笑いをこらえています。「そんなことで呼ばれると思うか…?」と、先生も平静を装いしっかりと指導を行っていました。あのシュールな光景は今でもしっかりと脳裏に焼き付いています。


教育旅行は一般向けのツアーとお仕事内容、やりがい共にだいぶ異なりますが、私は徐々に教育旅行の魅力に取りつかれていきました。現在、小学生向けの成田空港校外学習プログラムをはじめとした、子供向けのコンテンツもいくつか手掛けていますが、子供達とスムーズにコミュニケーションが取れるのは、添乗員時代に教育旅行を沢山経験させて頂いたおかげだと思います。


庭野 大地
庭野 大地 Taichi Niwano

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。

WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/