様々なバスツアーと断る勇気~お断りはハッキリと~
突然ですが、皆さんはバスツアーと聞いてどんなものを思い浮かべますか?
今回は添乗員の目線から、いろいろな種類のバスツアーをご紹介させて頂きます。
①ミステリーツアー
ご参加された経験がある方はピンとくるかと思いますが、集合場所・集合時間とツアー内容のヒントだけが明記されていて、どこに行くかは当日のお楽しみというツアー商品です。もちろん、添乗員やバスの乗務員さんはどこに立ち寄るかは知っていますが、お客様に知られてはいけないので、ひそひそ打合せをする必要があったり、一体どこに行くんだろう?とワクワクさせる役割も課せられます。盛り上げるタイミングはズバリ高速道路の分岐です。例えば中央道を山梨方面に走っている時、目的地が長野県なのか山梨県なのか、そして同じ山梨県でも甲府方面なのか富士山・河口湖方面なのか…もしかしたら御殿場方面に抜けるのか?…と沢山の可能性があります。大月ジャンクションなんかは運命を決める重要な分岐となりますので、添乗員もお客様を盛大に煽ります。「さて、この分岐をまっすぐ行けば甲府・長野方面です。左に曲がりますと、富士山や河口湖がある方面となります。さぁ、どっちでしょうか!?」。そして、ノリノリの運転手さんだと、わざと別の車線を走行して直前で正しい方面に進路変更してくれたりもします。そうすると車内も大いに盛り上がりますし、良い雰囲気でツアーも切り盛りしやすくなります。
②ウォーキングツアー
バスツアーなのにウォーキング?!と思った方も多いかと思いますが、実はとても人気があり、シリーズで販売できるので旅行会社にもメリットの大きいツアー商品になります。大きく分けて「〇〇街道を歩く」と「〇〇ぐるっと一周」の2パターンがあります。前者は比較的イメージしやすいかと思いますが、例えば「甲州街道を歩く」というツアーの場合、起点となる東京都中央区日本橋から、長野県の下諏訪まで延々と歩き通すというものです。ただし、全長200km以上もありますので一度で歩き切るわけではありません。第1回は日本橋から四ツ谷、第2回は四ツ谷から明大前…のように、最初は現地集合・現地解散を繰り返していくのですが、東京都を抜けたあたりから日帰りバスツアーに切り替わります。最後の方はバスの乗車時間も数時間に及ぶ為、効率よく歩く為に宿泊のツアーに変化を遂げます。参加するお客様は固定ではないのですが、ツアーの性質上同じ方が参加する率が高く、参加者同士が仲良くなることもあります。また、専任のガイドさんが先導する為、歴史等を学びながら楽しく歩くことができます。全行程歩き切ると完歩した証書が発行され、達成感を味わうこともできるのも大きな魅力の一つです。ただ、全て参加すると20日以上となり、デアゴスティーニやアシェットもびっくりの大金を支払うことになります。
後者は関東だと「富士山ぐるり一周」あたりが定番でしょうか。富士山に登るのではなく、富士山の麓をひたすら歩いて周るものです。毎回雄大な景色を眺めながら歩けそうなものですが、運が悪いと1日中富士山が見えないなんてこともあり、もやっとすることも多いツアーだったりします。なお、ウォーキングツアーでは「イヤホンガイド®」が貸与されることも多くあります。その場合には距離が少し離れていてもガイドさんのご案内がクリアに聴けてお客様にも好評ですし、最後尾を歩く添乗員としても安心だったりします。
ちなみに、添乗員もお仕事をしながら街道を歩き通せたり、富士山を一周できるかも♪と期待していたのですが、意外と同じ部分を歩くツアーが重複してアサインされてしまったり、飛び飛びだったりして、一つとして歩き通せたことがありません(笑)
③登山ツアー
富士登山から日本百名山制覇というようなものまで、あらゆる山がツアー商品として設定されています。一人で登るのが心細い人も専任のガイドさん同行で安心ですし、往復バスなので楽ちんだと、こちらも大変人気があります。ただ、登山ツアーは添乗員にとっては大変負担の大きいお仕事でもあります。先頭をガイドさんに任せて最後尾をついていくのはウォーキングツアーと一緒ですが、何かトラブルが発生した時には、添乗員がケアに回らなければなりません。例えば足を怪我してしまったお客様がいた場合には、その方を連れて一緒に下山しなければならないわけです。最初は初級者向けの登山ツアーにアサインされますが、初級とはいえ急傾斜やクサリ場があったりすることもあり、登山経験が乏しい人にとってはついていくのがやっとで、とても他人のケアをしている場合ではありません。
私は登山ツアーを一度だけ引き受けましたが、実際に経験してみて何かあったら責任が取れないと思ったので、以降登山ツアーはNGにしてほしいと申し出ました。アサイナーは「新人のくせに仕事を選ぶ気か!」とばかりに不機嫌になってしまいましたが、自分の身は自分で守るしかありません。アサイナーの仕事は受注したお仕事と添乗員をマッチングして埋めていくことですので、そう言いたくなる気持ちは理解できます。ただ、経験がなくて不安な添乗員を「経験の為に」とか「登山ツアーが出来ると仕事が増える」等と半ば強引にアサインする文化は根が深い問題があるように感じます。
勿論、やってみて登山添乗にハマるという人もいますので、とりあえずやってみる!という姿勢は良いと思います。与えられたお仕事を何でもこなすことでアサイナーの信頼を勝ち取ることにつながりますし、良いお仕事をアサインしてもらえる可能性も高くなるでしょう。ただ、業務中にミスをした場合には、お仕事を引き受けた本人が責任を負わなければなりません。添乗員を志している皆さんは、その点だけはしっかりと肝に銘じて頂き、無理のない範囲でお仕事をすることをおススメします。
(震災の影響で入社後半年以上経ってから実施された所属会社でのバス研修での1枚)

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。
WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/