第5話 職業訓練校時代③
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~ツアー企画を賭けた絶対に負けられない戦い~


これまでも課題を与えられ、グループワークをしたことはありました。よく覚えているのは、旅行会社の実店舗を視察するというもの。建物の1階にあり、通りに面しているいわゆる路面店と、建物の2階以上にあり、階段またはエレベーター等で移動しないと入店出来ない空中店舗を比較し、入りやすさや店舗の広さ、パンフレットの置かれ方、接客の状況などをレポートするというものでした。


新宿駅周辺の店舗をいくつか回りました。授業の一環とはいいつつも、屋外で少人数、しかも講師が同行していないということで、和気あいあいと調査を楽しみました。当然といえば当然なのですが、空中店舗の方が入店のハードルが高く、店舗スペースも狭いため入店しづらい一方で、賃料は圧倒的に2階以上の方が安いため、どちらにもメリット・デメリットを感じました。とはいえ10年以上も前の話ですし、今ではコロナ禍もあいまって、旅行会社の実店舗は相当数を減らしていると耳にします。よくよく考えてみたら、私自身も実際に旅行会社の店舗に赴いて旅行の申し込みをしたのは15年ほど前が最後で、それ以降はインターネットを使っての予約にシフトしていました。


さて、いよいよ3か月間のカリキュラムの中でメインのイベントといっても過言ではない、バス研修の行先・ツアーの行程をかけた“国内ツアー企画”のグループワークがスタートしました。各グループが企画したツアーを発表し、一番評価が高かったツアーの行程がバス研修に採用されるというもので、純粋に勝ちたいという思いはもちろんのこと、自分たちで企画したツアーにこのクラスのメンバーで行きたい!という、まるで卒業旅行のコンペでもしているかのようなテンションで各々臨んでいました。


講師が最初の1コマ目でツアー企画の条件や、企画のポイント・コツのようなものを話してくれましたが、値付けを考慮する必要もなく、しっかり企画のいろはを教えてくれるというものではありませんでした。よく言えば自由な発想で、悪く言えば怖いもの知らずに、各班ツアーの行程を組み立てることになりました。とはいえ、全くのフリーハンドではなく、下記のような条件が示されました。


【ツアー企画の条件】

  1. ①新宿発着の日帰りバスツアー
  2. ②大型の観光バスが立ち寄れるスポット
  3. ③有料施設はなるべく避け、無料の観光スポット中心とする

ネックはやはり③でしょう。無料の観光スポットを巡るツアーだけど面白い企画にしなければいけないという大いなる矛盾。この点に関しては、実際に旅行会社でツアー企画に従事している方々もさぞ頭を悩ませていることだろうと思います。


メンバーのうち1人は、旅行会社に勤務経験のある人でしたが、それ以外の面々は旅行業は素人で、旅行に行った回数が多い・少ない程度の差しかありませんでした。企画の第一歩でまず決めなければならないことは、方面を決めることです。新宿起点で日帰りと考えたときに、観光をして帰ってこられる都道府県はおのずと絞られます。ただ”卒業旅行”も兼ねていることから、近場の観光よりなるべく遠方を欲するようになります。いろいろな案が飛び交ったのち、私たちのグループでは山梨県内を回るツアーを企画することに落ち着きました。行ったことがない遠い所へ行きたいという気持ちと、とはいえツアー企画をするうえで土地勘が全くないところを選ぶのはリスキーという2つの理由から、多くのメンバーが訪れたことがある山梨に決まったのではないかと回顧します。


ガイドブックやインターネットで情報収集し、立ち寄り場所の候補を各々持ち寄りました。先述の通り、旅行業経験者が1人いたものの、黒一点であることをいいことに私がある程度主導権を握って進めていたような気がします。このコラムのどこかでもお話する機会があるかもしれませんが、私はかなり盛りだくさんな企画をする傾向にあります。当時作成した行程表がパソコンの中にデータとして残っていたので確認してみましたが、昼食場所を含めて7か所も立ち寄る大変忙しいツアー内容となっていました。添乗員を経験した今見返してみると、「え!?この順番?」とか「要らない要らない…」とか「いや、無理でしょ!」とか、そんな感想しか出てこない行程で思わず苦笑してしまいます。一方で、添乗員として山梨は幾度となく訪れることになりましたが、いまだに立ち寄ったことがないところも残っており、奥の深い仕事だなぁとも思います。



(プレゼン大会で添乗員デビューをした筆者)

さて、いよいよツアー企画の発表、すなわち戦いの日を迎えます。普通のプレゼンでは面白くないということで、何を血迷ったのか私たちのグループは実際のツアー行程をなぞった寸劇を演じながらプレゼンをするという暴挙に出ました。誰の発案だったかもはや思い出せませんが、私庭野が添乗員役を務め、そのほかのメンバーが立ち寄り場所の店員さんや観光スポットを象徴する物に扮して、やり取りをしながらツアーの魅力を伝えるというものです。


「さて、次は信玄餅で有名な桔梗屋さんの工場にお邪魔しますよ。桔梗屋さん、こんにちは!ここでは何ができますか?…」
自他ともに認める間が悪い私は、そんな大事な日の直前に髪を切りすぎてしまい、髪型のセットもままならないまま、ホワイトボードの前で一足早い“添乗員デビュー”をしていました。

庭野 大地
庭野 大地 Taichi Niwano

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。

WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/