私が通っていた旅行ビジネスについて学習出来る職業訓練校は、大きく分けて2種類の資格を取得するのに役立つカリキュラムとなっていました。皆さんは旅行業に関する資格と聞いて、ぱっと思い浮かぶものはありますか?旅行業に従事する人なら愚問かもしれませんが、
①(総合/国内)旅行業務取扱管理者
②(総合/国内)旅程管理主任者
という2種類の資格があります。少し難しい話が続くかもしれませんが、なるべく分かりやすくお話しますのでお付き合いください。
① 旅行業務取扱管理者は「旅行業」を開業するのに必要な資格であり、この資格を持った人を営業所に配置しなければならないというもので、旅行業界で唯一の国家資格となっています。他業種で例えるなら、難易度こそ大きく違いますが、不動産業界で必要な宅建に近いでしょうか。他方、②旅程管理主任者は、添乗業務、いわゆるツアーコンダクターのお仕事に従事する際に必要な資格です。①旅行業務取扱管理者に比べたら取得難易度はかなり低いものではありますが、①旅行業務取扱管理者の試験がペーパー試験だけなのに対して、②旅程管理主任者の方は、実地経験も必要である点が大きく異なります。
誤解があるといけませんので、興味がある方はそれぞれの資格を検索して正確な情報を確認して頂ければと思いますが、ざっくりと説明すると、旅行商品を売る時に必要なのが①旅行業務取扱管理者、実際にツアーを催行する時に必要なのが②旅程管理主任者です。
さて、旅行商品は形のない「無形商品」です。例えば電化製品あれば、実物を見た上で購入が可能ですし、機能やスペックやサイズなども明示されていますので、購入前と購入後で誤解が生じることは少ないと思います。もちろん、元々粗悪品だったり不良品だったりした場合にはこの限りではありませんが。
一方、旅行商品に関しては立ち寄る観光地、交通機関による移動、宿泊施設などを組み合わせて作られた商品であり、”パッケージ”で包まれているものの”形”がありません。告知のパンフレット等を見て消費者は申し込みをしますが、そのパンフレットに書いてあることは【どこに行ってどんな観光をするか】というイメージ中心のものとなり、誤解を恐れずに言えば非常にぼんやりとした内容になります。お客様はそのパンフレットを見てツアーに申し込み参加しますので、謳っている内容と実態に誤解が生じないように努める必要があります。そうしないと、出来もしないことを列挙した格安ツアーが横行し、消費者が不利益を被ることはもちろんのこと、旅行業界全体の「信用」を貶めることにもなってしまいます。
誇大広告になってしまったり、実際に出来ないことが書いてあったりしないように、その旅行商品の責任の所在をはっきりさせる為、パンフレット等に①旅行業務取扱管理者の名前を明記することになっています。また、パンフレットに明記されている内容をしっかりと提供する為に②旅程管理主任者の資格を持った添乗員がツアーに同行し、約束通りの内容、万が一事情があってそれが適わない場合にはなるべく約束に近い内容でツアーを切り盛りすることが求められるわけです。
(旅行業界で働くために旅行業の資格取得に励む筆者)
そして、それぞれの資格には国内と総合があります。文字通り国内~は国内旅行のみで有効な資格、総合~は国内旅行も含めた全ての旅行で有効な資格となります。お陰様で私は総合旅行業務取扱管理者と総合旅程管理主任者のいずれも取得することができましたので、海外旅行を取り扱う旅行会社も開業が出来ますし、海外旅行の添乗業務に就くことも可能です。もっとも、今の仕事ではそのいずれも使う必要がないので、ほぼ”塩漬け“状態ですけどね。
国家資格である①旅行業務取扱管理者は年に1回しか試験が無い為、職業訓練期間中の取得は出来ませんが、②旅程管理主任者については、職業訓練校が旅程管理研修期間に指定されていたので、3カ月の在学期間中に取得が可能でした。先述した通り②旅程管理主任者の資格を取得するには実地経験が必要なのですが、バス研修が授業に組み込まれているので、その気になれば卒業後すぐに国内添乗員の職に就くことが出来るようなカリキュラムとなっていました。
バス研修は観光バスを貸し切って、旅程管理の資格保持者同伴の下、実際のツアーを模した行程を回りながら行う研修のことです。バス車内では車内でのあいさつや下車案内等のアナウンスを順番に実践したり、観光地では誘導や精算業務などをロールプレイングしたりします。
この職業訓練校のカリキュラムの面白いところは、ツアー企画の授業が設けられていることでした。与えられた条件の下グループごとにツアーの企画を行うのですが、各グループが自分たちで企画したツアーのプレゼンを行い、その中で最優秀ツアーに選ばれた内容が、そのまんまバス研修のツアー行程となるのです。
中学・高校と生徒会に属し、大学ではイベント企画系のサークルに所属したり、自分のクラスの文化祭の出し物を取り仕切ったりしていた私にとって、このツアー企画の授業は大変血が騒ぎました。なんとしても最優秀を獲得し、自分たちが造ったツアーでバス研修に行きたい!と意気込み、他のメンバーの主張が強くないことをいいことに、実質主導権を握ってツアー企画に没頭することになるのでした。企画をする上で調べものをするのに役立つだろうと、当時まだ世間的にそこまで必要性が高くなく、所持している人が少なかったスマートフォンを初めて手にしたのもこの時でした。

EventOffice ミキキートス代表。
中央大学卒業後、観光とは異業界での勤務経験を経て、旅行会社で国内外の添乗員・ガイド業務に従事。
2015年からは、主催のミキキートスにてイヤホンガイドを使用した参加型ツアー事業を開始。「大人向け社会科見学」や「親子でまなぶ」をコンセプトとし、築地/豊洲市場、成田空港や国会議事堂見学をはじめとした多数の人気ツアーを企画。
「名物ガイド」として多くのメディアで注目を集める。
新型コロナ禍以降は、オンラインツアーガイドに注力。最近では観光地や企業とのコラボイベントも始まり、コロナ禍でも多忙な日々を過ごす。
目下“偉大なる素人”を目指して邁進中。
WEBサイト:https://www.mikikiitos.com/